青井岳温泉に伝わる 昔昔のお話
昔々の話。青井岳が太古の湖から姿を出した頃、樹は生い茂り、天狗どんが住んじょいやったげな。ある日のこっ、川ん傍にぶくぶくとろとろっと泥んよなもんが沸いちょった。
「なんじゃろかい」と手を入れたらよかあ湯じゃった。 汚れた面を洗い、そん気持っのよさを嫁じょに語っと、こんだ嫁じょがなあ、「よかもんぬ見ひけやひたなあ」とめいひ(毎日)にっ来て面を洗やった。
天狗の面は赤けもんじゃけど、どげんしたこっか、嫁じょの面は白くなって「人間のよかおごんご(美しい娘)っなつたあ」とよろくだ(喜んだ)。
天狗は人間のおなごになろごたい(なりたい)」と、いっもゆごっなった(言うようになった)。
天狗どんな「おら、赤面(あかづら)の嫁んほがよかー」と思ったどん、あとの祭りじゃつたげな。そこずいの話。
むかし、山之口の青井岳にはそがらし猿が住んじょったそうな。
ある日んこっ、鉄砲に撃たれた子猿を抱いた親猿が、境川ん傍の水溜りにじいっと座っておった。半月ばっかいしたとっ、う怪我をしちょった小猿が元気になって山へ戻っていった。
そいかい、怪我 をした猪や兎っどんたっも、岩ん間の水溜りにじっと座るようになった。
「おかしなこっよね」と村ん人が入ってみよっと、よか―湯でな傷ぐっ(傷口)が治った。
動物ん方が、生きる知恵は深いという。とろみの湯にはなんかある。
世の中には不思議な話がどっさい残っちょる。そこずいの話。